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雇入健診の実施対象者 ~意外とある対応漏れ~

事業主や人事担当者が戸惑う業務の1つとして健康診断が挙げられます。1年に1回義務付けられている定期健診など基本的な対応事項以外にも、健診に関する様々な事項が法で定められています。今回はその中でも意外と対応漏れが散見される「雇入れ時の健康診断」について解説を致します。

雇入れ時の健康診断の内容と実施時期】

 

雇入れ時の健康診断とは、労働安全衛生規則第43条で定められた健康診断の一つで、事業者が常時雇用する労働者を採用する(雇い入れる)ときに、医師による健康診断を実施することを義務づけている制度です。

<労働安全衛生規則第43条>
事業者は、常時使用する労働者を雇い入れるときは、当該労働者に対し、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。ただし、医師による健康診断を受けた後、三月を経過しない者を雇い入れる場合において、その者が当該健康診断の結果を証明する書面を提出したときは、当該健康診断の項目に相当する項目については、この限りでない。

 <法定される検査項目>  ※省略不可
  ・既往歴および業務歴の調査
  ・自覚症状および他覚症状の有無の検査
  ・身長、体重、腹囲、視力および聴力の検査
  ・胸部エックス線検査
  ・血圧の測定
  ・貧血検査(血色素量および赤血球数)
  ・肝機能検査(GOT、GPTおよびγ-GT(γ-GTP)の検査)
  ・血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
  ・血糖検査
  ・尿検査(尿中の糖および蛋白の有無の検査)
  ・心電図検査


 雇入れ時の健康診断を実施する時期については法での言及はなく、通達(昭23.1.16 基発83、昭33.2.13 基発90)によって「雇入れの際とは、雇入れの直前又は直後をいうこと」が示されていますので、入社前はもちろんのこと入社後であっても可能とされています。しかし雇入れ時の健康診断は労働者の適正配置および健康管理の基礎資料を目的としていますので、入社後3か月以内には確実に実施するべきでしょう

 なお、上記の労働安全衛生規則第43条に記載がある通り、3か月以内に実施された医師による健康診断の結果を証明する書類を提出した場合には省略が可能とされていますので、例えば入社日から遡って3ヵ月前までに前職において採用者が健康診断を受診しているといった場合などには、その際の結果を提出してもらうことによって雇入れ時の健康診断を省略できます。ただしここで注意が必要なのが、あくまで省略できるのは「当該健康診断の項目に相当する項目については」という点です。もしも法定項目の検査が1つでも抜けていたと言う場合には対応義務を満たしていないことになります。そのため検査項目に漏れがないかきちんと確認するようにし、必要によっては受診機関に問い合わせをして確認すると良いでしょう。

 

 

雇入れ時の健康診断の対象者】

 

雇入れ時健康診断の対象は「常時使用する労働者」とされており、要件は以下のとおりです。

 上記の「契約期間」要件のいずれかに加えて、「労働時間」要件も満たす場合には実施義務が生じます。そのため正社員を採用する際はもちろんのこと、契約社員やパート、アルバイトなどを雇用する場合であっても対象要件を満たしている場合には、雇入れ時の健康診断を実施する義務が事業者に生じることになります。

例) 正社員の所定労働時間 週40時間

→ 40時間 × 3/4 = 週30時間以上

なお、上記以外の労働時間が通常の労働者の4分の3未満、且つ2分の1以上の労働者に対しては健康診断の実施は義務ではなく「望ましい」とされており、労働時間が通常の労働者の2分の1未満である労働者に対しては特に決まりはありません。そのため企業内で検討のうえ実施基準をあらかじめ定めておくと良いでしょう。

 

 

運用上、その他ポイント】

 

雇入れ時の健康診断は事業者に課されている法定健康診断です。そのため費用は原則として事業者負担となります。当健診の受診費用は保険適用外のため、受診機関によって料金が異なりますが、一般的には1万円前後が多いようです。事業者によっては採用者に対して、各自で自宅近隣の医療機関等で雇入れ時の健康診断を受けてもらい、その領収書を持参していただき事後精算するという流れにしている所もありますが、思ったよりも料金が高かったと言うケースも見られますので、事業者側で会社近くの提携機関を見つけて対応を一本化しておき、入社前オリエンテーションの来社時に合わせて受診してもらう形などにすれば、効率的かつ無駄な出費を抑えることができます。

 

 

なお、労働安全衛生規則第44条第3項により、雇入れ時の健康診断を実施した場合には、当該対象者に対して実施後1年間は、定期健康診断を省略することができますので、併せて事業者が把握をしておきたいところです。

 

 

【まとめ】

 

雇入れ時の健康診断については正社員だけ対応すれば良いと言った誤った解釈がされていることもあり、要件を満たした契約社員やパート・アルバイトの受診が漏れてしまっているケースも見られます。企業が実施する労働者への健康診断は「労働安全衛生法第66条第1項」により、事業者の義務とされています。違反した場合には「50万円以下の罰金」(労働安全衛生法第120条)が科せられることもありますので注意しましょう。

 

 

また、現代社会において「健康経営」に対する意識、「企業の安全配慮義務」に対する責任は年々増しています。健康診断はコストも掛かり中小企業、中でも零細企業には負担が決して小さくない法定対応事項ではありますが、きちんと対応をすることで既存社員だけでなく、採用時における新入社員との信頼関係構築にも繋がりますので、早期退職の防止にも寄与するものと考えます。健康診断の抜け漏れ、今一度ご確認してみてはいかがでしょうか。

 


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