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労働時間とされるリスク ~始業開始前の対応での注意点~

4月に入社した新入社員が社会人としてのペースに慣れてきた頃かと思います。企業によっては毎朝の朝礼をおこなって、社員間の意識の統一や、顔色・表情から体調不良や悩みを抱えていないか確認しているような所もあると思います。今回は朝礼などをはじめ、始業時間前によく行われている行事について、労働時間として注意を要するものを考えてみたいと思います。

【労働時間とは】

 

労働基準法における「労働時間」とは、労働者が指揮命令下に置かれている時間とされていますが、これに該当するか否かについては、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたと評価できるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないとされています。

要は就業規則や個別の契約書等で形式的に明記された時間だけが労働時間になるわけではなく、実際に使用者の指揮命令を受けているとみられるような時間も労働時間に含まれる可能性があるという事が示されているわけです。

労働基準監督署の定期監督等における平成31年(令和元年)の結果によると、労働基準法違反での違反件数は約115,000件弱となっており、その内容については多い順に「労働時間」「割増賃金」「労働条件の明示」とされており、労働時間に関連する内容が約60%を占めるという結果からもわかるように、「労働時間」をできるだけ正確に把握してコントロールすることが、企業防衛のために重要であることをご理解いただけるかと思います。

 

 

【始業開始前におこなわれるもの】

 

次に始業開始前に行われている行事についてですが、筆者自身も経験がありますが、やはり代表格とすると、「朝礼」・「掃除」などが思い当たります。これについては会社や現場からの指示や、なんとなく長年続く慣習のような形で行われているケースが多いのではないかと察します。

この点においては前述の通り、「就業規則や個別の契約書等で形式的に明記された時間だけが労働時間になるわけではなく、実際に使用者の指揮命令を受けているとみられるような時間も労働時間に含まれる可能性がある」と言う点を考慮する必要があります。

そのため朝礼が例えば「強制参加になっている」・「明確な参加指示がなくとも、不参加の場合に評価査定に響いたり、給与等に対して不利益が生じる」ような場合には、使用者による参加の義務付けがあるとして、労働時間と評価されると考えられます。また、それ以外であっても朝礼に参加しないことにより、当日の業務などに支障が生じるような場合なども、事実上、朝礼に参加する必要性があったものとされ、労働時間と評価される可能性があります。朝礼を行う場合、やはりどうしても業務連絡を含んでしまうことが多いため、このような点を考えると安全に運用するためには、基本的に始業時間に合わせて開始する方が良いでしょう。

なお、掃除についても考え方は同じです。掃除において言えば、例えば会社貢献度や積極性などの評価項目を設けている企業において、内々で掃除への参加姿勢を評価ポイントの1つとしている企業も見受けられます。このようなケースでは労働時間とされる可能性が高いように思いますので注意が必要と言えます。

 

 

【慣習的にやっている場合】

 

 

最後になりますが、掃除においてこのようなケースはありませんか?

上司:「自由参加だから」、「各自の意思に任せるよ」

このように会社の解釈としては、指示を明確に行っておらず本人達の意思に任せていますというパターンです。

しかしこのように建前上は自由参加にしていたとしても、長年の慣習などにより事実上、労働者側からみると「やらないといけない空気感になっている」、「やらないと上司に怒られる」と言ったような特殊なケースである場合には、掃除について「黙示の指示」があるものとして、始業開始前の時間が労働時間に含まれる可能性があります。
そのため、あらかじめ当番制にして明確に指示のうえ、当番の社員の労働時間にきちんと算定したり、もしくは始業時間後に指示するなどの方法を取った方が運用上は安全と言えるでしょう。

余談ですが、IPO(新規公開株式)を将来的に目指される企業様においては、上場審査にむけて未払い賃金の有無や、そのリスク有無についても、審査前に確認と解消をおこなっておくことが必要となりますので、早い段階から企業として改善の取り組みや安全な運用の検討をおこなうことをお勧め致します。

 

【まとめ】

 

意外と普段気づかずにおこなっているものが、場合によっては労働時間とされるリスクがあることをご理解いただけたことと思います。「とは言っても、一日10分くらいでしょ?」と考える事業主様もいらっしゃるかもしれませんが、仮に1日10分としても、月20日勤務の企業様で200分/月に上り、割増賃金の支払いを要する場合も多く、人数が多ければ多いほどそれなりの金額へと膨れ上がります。

何よりも労使トラブルが発生すると、その人件費のキャッシュアウトだけでなく、解決のための労力・時間、そして場合によっては弁護士事務所等への相談などを要することになり、結果的に金銭以外の想定外のダメージを負うことにも繋がりかねません。そのようなことがないよう、今一度、始業開始前の労働時間について確認と見直しをしてみてはいかがでしょうか。


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