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競業避止義務とは ~退職時の誓約書や就業規則の確認を~

転職活動もひと昔前と比べて、その捉え方や意識も随分と変わってきたように感じます。今回は退職時に見かける、転職者(退職者)に対する「同業他社への転職禁止」を掲げた退職後の競業避止義務に関するご留意事項をご紹介致します。

【同業他社への転職は基本的に自由】

 

社員から退職の申出があった場合、企業としては「自社の秘密事項や会社独自のノウハウの流出」などにより、自社事業にマイナスの影響が出ないか心配になると思います。事業主様ならば、退職はともかく同業他社への転職は避けてほしいと一度は考えたことがあるのではないでしょうか。

しかし、このような同業他社への転職を果たして制限できるのでしょうか。
こちらについては、皆様も学校の社会科の授業で習った記憶があると思いますが、憲法第22条にて「職業選択の自由」が保証されており、同業他社への転職そのものについては各自の自由であって特段の問題はなく、同時に職業選択の自由には「営業の自由」も含まれるとされているため、転職だけでなく起業も自由で問題ないものと考えられています。

 

 

競業避止義務について】

 

前述のように何でもかんでも自由と言うことになってしまいますと、企業の事業活動に対する不利益も大きくなります。そのため競業避止義務については、就業規則、労働契約書、誓約書などの特約として当事者間で締結し、その内容が過度なものでなく、限定的なものであることを条件に有効とされています。具体的には以下のような点を総合的に勘案のうえ、その有効性の判断がなされます。

 (1) 守るべき企業の利益があるか
 (2) 従業員の地位
 (3) 地域的な限定があるか
 (4) 競業避止義務の存続期間
 (5) 禁止される競業行為の範囲について必要な制限があるか
 (6) 代償措置が講じられているか

  (引用資料) 経済産業省「競業避止義務契約の有効性について」

 要するに、そもそもその転職者(退職者)が競業避止義務の特約をしなければならないような、企業にとって法的保護の対象となる「企業(営業)秘密・ノウハウ」などを持っているのか、そのような情報に触れるような地位や職種にあるのか等に加え、あまりに広い地域や長い期間を禁止していないか、禁止とする競業行為は限定的なのか、そして代償措置(退職金の上乗せ等)が取られているかといった、このような点をもって判断がされるということになります。

競業避止義務についてはその方の自由を制限することになるため、前述のような判断要素を考慮したうえで、必要最小限の範囲や内容にてご検討をしていただく必要がありますので、何となく以前からの慣習によって、内容を見ずに誓約書において特約を結んでいるなどと言った場合には確認をしていただくと共に、もしも就業規則や誓約書などに競業避止義務の記載が無いということになりますと、当事者間での約束がなかったものとされて無効になってしまう可能性が高いため、このような場合には早めの見直しをお勧め致します。

なお、前述致しました判断要素をご覧いただいた通り、基本的に退職する社員に対して一律に競業避止義務を課すことは現実的に非常に難しく、事案ごとの検討を要することになりますので、場合によっては運用そのものを弁護士等の専門家に相談してみると良いでしょう。

 

 

【企業の対応について】

 

以上のことから、企業側の対応について最後に考えてみたいと思います。まず、競業避止義務の特約の締結時期についてですが、退職時の誓約書等にておこなう場合、そもそも退職者が転職活動・起業準備を既に完了している可能性も高く、現実的に当事者間での合意は難しくなることが予想されます。

このような点を考慮しますと弊所と致しましては、例えば在職中に競業避止義務の対象となる、法的保護の対象となるような企業(営業)秘密・独自のノウハウを有することになる段階(昇進や人事異動等)において、誓約書を締結するような流れにする方が宜しいのではないかと考えています。

この際、十分に社員へ説明をおこない、主旨や企業に対する影響などについてご理解をいただき、トラブルとなるような転職や起業は差し控えてもらうことが何より将来的なリスクの回避に繋がるのではないでしょうか。そのためにも日頃からの労使間のコミュニケーションを疎かにせず、相互理解を深めておくことが大切であることは言うまでもございません。

 

 

まとめ】

 

人材の流動化が進む社会において、これからさらに転職が活発になってくることも予想されます。それと同時に企業は、厳しい競争社会を勝ち抜くため自社特有の企業(営業)秘密や独自のノウハウを守っていかなければなりません。競合避止義務の具体的な内容については個別に検討をおこなう必要がありますので、弁護士等の専門家へ必要に応じてご相談下さい。取り急ぎまずは現時点における自社の内容が、どのようになっているか確認してみてはいかがでしょうか。


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