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初めての人事制度 ~設計のポイント~

 弊所に寄せられるご相談の中で、人事制度は企業が何名くらいになったら導入するのが良いか?と言うものがあります。企業において「人事制度の設計」は成長にむけた重要な局面とも言えます。

 今回は、人事制度を初めて検討される企業様むけに基本的な情報やポイントをご紹介します。

【そもそも人事制度とは?】

 

皆様は「人事制度」と聞くと何をイメージされますでしょうか?弊所の肌感覚としては、「人事制度」=「評価制度」と考えている方が多いように感じています。しかし一般的には人事制度とは、以下の3つの制度をまとめた総称と言われています。

 

     等級制度

 人事制度においては、一般論としてこの「等級制度」が全ての支柱になるとされ、当該企業における従業員を、能力・職務・役割・責任等にてランク(グレードとも呼ばれます)分けし、業務を行う上での権限や責任を明確化したものを指します。この等級制度は、会社が求める人材像を明文化したものであり、経営計画などにそって必要な人材像を整理や周知すると共に、企業の従業員に対する人材育成における基本的指標ともなるべくものです。逆に従業員目線からは当該企業における自身の基本的ロードマップ(キャリアマップ)とも言えます。近年では社会的ニーズの変化として、管理職に興味を示さない若者が急増しているとされていますが、これを鑑みて等級制度に管理職としてマネージメントを求めない、専門職(スペシャリストコース)を導入する企業も増えています。

 

     評価制度

 各企業において定めた各従業員の能力や、一定期間におけるパフォーマンス、そして会社への貢献度を評価して処遇に反映するための制度です。最も従業員が注目している制度と言えると共に、最も従業員がシビアに見ている制度とも言えます。前述のとおり、人事制度=評価制度と言うイメージが先行することも、この給与や賞与などの処遇を決定するための仕組みであるという点が大いに関係していることでしょう。

 

     賃金制度

 社内の給与体系を明確化するための制度です。一般的には等級制度と連動させ、ランク(グレード)毎に給与の上限・下限枠を設定します。(例:G1ランクは300~400万円、G2ランクは400~500万円など)これにより会社側は中期経営計画などを立てる際に、人件費のシミュレーションがしやすくなります。また、従業員にこの給与テーブルを公開すれば、各ランク(グレード)における当該企業の処遇のイメージが持てるため、次のランクを目指すモチベーションが高揚したり、自身の将来的なキャリアイメージを想像しやすくなるでしょう。

 なお、この給与テーブルは、特に中小企業において経営の柔軟性と言う観点などから、完全に従業員へ非公開にしているケースなども見られます。公開・非公開の判断は当該企業の判断と言うことになりますので、創業年数、会社規模、当該企業の内情などを考慮して、適切と考える方で運用すると良いでしょう。ただし、減給やそれを伴う降格などをおこなう場合には、社内での公開・非公開の実態が関わってくることがありますのでご留意ください。

 

 最初の質問に戻りますが、これらの制度をいつのタイミングで導入すれば良いか?と言う点において、弊所としては20~30人規模に達した時点をお勧めしています。理由としては大きく分けて2つ。1つ目はそもそも社長お一人で適切な評価が厳しい規模に至っている点、そして2つ目は事業拡大にむけて人事制度の導入は不可欠となりますが、ある程度早い段階から評価者を育成していく必要があること、そして会社として成功例・失敗例のノウハウを蓄積していくべきと考える点にあります。評価制度は3つの中で最も企業が苦労する制度で、その多くが従業員が会社からの評価に納得させられないことが挙げられます。そのカギを握るのが評価者であり、この育成や運用は至上命題となるからです。

 

 

【最初の着手は等級制度】

 

人事制度の導入にあたっては、初めに等級制度の検討に着手しましょう。等級制度は人事制度の根幹をなすものです。この等級制度がないままに評価制度と賃金制度を立ててしまうと、導入後に必ずと言ってよいほど、従業員間における給与・役職が不均衡となる現象や、人材育成を施してもイマイチ効果が得られないなどの不調をきたします。まずは会社の経営計画にそって、会社が求める各ランクの人材像をまとめ文章に起こしてみましょう。そして各ランクが出来上がったら、在籍社員をそのランクに当てはめてシミュレーションをしてみましょう。今回、この設計の詳細に関する説明は省略しますが、実際にやってみると非常に難しく、なかなかうまく纏まりません。

 

 また、ランクへの配置において、仮に特定の従業員の給与額を変更する場合には、法律上の注意点なども出てきますので、社会保険労務士などの専門家を入れつつ進めると安心ですので是非ご検討下さい。余談ではありますがこの等級制度が固まっていくと、ゆくゆく体系的な教育制度の導入もしやすくなり、それまで単発的であった社内研修が会社の人事制度に則った研修へと様変わりし、人財育成の方針も自然と進んでいくこととなりますので、採用活動などでも大いにアピールすることができるようになります。

そして等級制度の骨格ができましたら、次に評価制度へと移行し、2つの制度が固まったら最後に賃金制度に移行し、3つの制度を連動させて運用を開始する流れにすると良いでしょう。

 

 

 【トライアル期間を用意】

 

 人事制度は3つの制度が絡み合う超大型の仕組み(システム)です。設計には概ね6ヵ月から1年を要するものと思います。企業によっては導入したらすぐに運用スタートとする所もありますが、弊所の意見を述べさせていただくと、「必ずトライアルの期間を1シーズン設けた方が良い」と考えています。人事制度は「運用」が全ての鍵を握ります。どんなに素晴らしい制度を構築しようとも、運用が疎かになってしまっては何の意味も持ちませんし、意味が無いだけならまだしも、場合によっては従業員からの不満や不安を増長させてしまい、かえって社内を難しい状況に追い込んでしまうリスクも含んでいます。

 

 人事制度を導入する際には、制度の理解を深めてもらう期間が必須です。人事制度を入れても上手くいかないケースの多くが、導入することが目的となってしまっており、本来の目的を見失っていることが多いように感じられます。社長からの方針説明、人事担当者からの概要説明だけで理解して適切に運用が進むことはまずありません。細かく人事担当の方でコントロールや運用フォローをおこなう中で、評価者(上司)と従業員に理解を深めてもらい、トライアル期間で得られた現場からの意見なども随時集約して議論していき、微調整を入れながら一定の理解が得られたというタイミングで本導入とする流れが好ましいものと考えます。このようなトライアルの期間なども含めて考えますと、やはり企業が20人を超えたあたりから検討や導入準備を進めていく必要があるものと思います。

 

 

【まとめ】

 

 

人事制度は企業成長の重要な仕組みです。ある程度大きい規模に成長してから導入の検討をするとなると、企業が大きくなりすぎていて、導入が非常に難しくなることもあります。経営計画に連動させて、早い段階から事業成長へ向けて準備を進めていきましょう。


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