· 

有給休暇の取得に関するQ&A

 現在、子育て・介護との両立支援や、長時間労働の解消などにむけて年次有給休暇(以下、有給休暇)の取得増加にむけた動きが進められています。 厚生労働省が先日発表した最新の令和4年就労条件総合調査によると、令和3年における消化率は56.6%と発表されました。

 

しかし政府の目標は令和7年まで70%の達成とされており、まだまだ未達の状況です。ワークライフバランスが求められる現代において、これから従業員における有給休暇のニーズも高まることが予想されます。今回は普段寄せられる社員からの有給休暇に関する質問と内容についてご紹介します。

【Q1. 有給休暇の取得理由は申告が必要ですか?】

 

 結論から申し上げると、各労働者が「理由を申告する義務」は法律上ありません。有給休暇は労働者が心身の疲労を回復して、ゆとりのある生活を送ることができることを目的とされており、特定の理由がなければ取得できないものではありませんし、有給休暇をいつ取得するかは労働者の自由とされています。そのため仮に勤務先が有給休暇の取得理由を聞いたうえで、取得させないようなことがあれば、使用者が「6カ月以上の懲役、または30万円以下の罰金刑」となる可能性もありますので注意しましょう。

 

 

 【Q2. 土日などの休日に使用できますか?】

 

 2019年4月から全ての事業主に対して、年10日以上の有給休暇が支給される労働者に対して、年5日については使用者が時季を指定して取得させることが義務付けられましたが、この規定には管理監督者や有期雇用の労働者も含まれています。しかし、例えば管理監督者である管理職が多忙であることを理由に、人事担当者から取得勧奨をおこなったとしても、思うように有給休暇を取得してくれないと言った悩みも聞こえてきます。このような状況の中、労働者から「平日は有給休暇を取れないので、土曜に取得したい」などと、会社の休日に取得を希望されるようなケースがあります。

 

 これについては労働基準法39条に規定があり、有給休暇は「労働日」に与えることを定めています。そのため会社が指定した「休日」において有給休暇の取得を希望したとしても、そもそもその日は労働義務がない日であり、有給休暇を取得することができません。また、この場合に仮に会社が取得させたとしても、本来の有給休暇ではありませんので、前述の年5日の消化義務日数にはカウントもできませんので注意しましょう。なお、このような場合には、有給休暇の「半日」の取得を会社で検討してみるのも良いでしょう。年5日の消化義務については時間単位の有給休暇取得はカウントできませんが、半日休暇は「0.5」とカウントすることが可能とされています。当該労働者においても、終日休暇は難しいとしていても、午前半日であればと言って取得が進むようなケースも見られます。

 

 

【Q3. 業務繁忙を理由に取得を許可しないことはできるか?】

 

 有給休暇については前項で触れた通り、取得理由および、申請日も労働日であれば労働者の自由となっています。これに対して勤務先には「時季変更権」と言う権利があります。これは「会社の事業の正常な運営を妨げることになる場合に、労働者が取得する有給休暇の取得時季を変更することができる権利」のことを言います(労働基準法39条5項)しかし、この点における「事業の正常な運営」とは、業務遂行のための必要人員を欠くなど業務上の支障が生じることだけでなく、人員配置の適切さや代替要員確保の努力など労働者が指定した時季に、有給休暇が取れるように使用者が状況に応じた配慮を尽くしているかどうかが問われるとされており、勤務先が代替要員の確保を検討・調整もしていない場合や、単に当日の他の者の業務が通常よりも忙しくなるのでと言った理由では、勤務先の時季変更権の行使は難しいものと予想されますのでご留意下さい。まずは当該労働者ときちんと話し合いの場をもち、取得の希望が変わらない場合には、他の労働者が代替勤務できないかなどを検討してみましょう。

  

 

【Q4. 休職から復帰した社員の有給休暇はどうなる?】

 

 たとえ休職中であっても労働契約は継続していることになりますので、休職開始時に保有していた有給休暇の日数は維持されます。しかし、休職が長期にわたる場合には有給休暇が消滅する可能性があります。これは有給休暇の時効が発生した日から2年とされており、会社独自の規定がない限りは、休職期間中に当期間が経過してしまった場合には消滅してまうので取得ができなくなるのです。

 

 なお、休職中についての取扱いですが、有給休暇は対象期間における全労働日の8割以上を出勤しなければ付与がされませんので、お休みが続く休職中に新たに有給休暇が与えられるということはありません。しかし、復帰後については休職前と同様に有給休暇が毎年付与されます。では、この場合に付与される日数はどうなるかが問題になりますが、この場合には前述のとおり雇用は継続していることになりますので、基準日(有休付与日)にその年に予定されていた付与日数が通常どおりに付与されることになります。

 

 例)正社員

 

 ・勤続6ヵ月    有給休暇10日付与

 ・勤続1年     私傷病休職

 ・勤続1年6ヵ月  有給休暇11日は付与されず(出勤率8割に満たず)

 ・勤続1年7か月  職場復帰

 ・勤続2年6ヵ月  有給休暇12日付与(出勤率8割を満たせば付与あり)

            → 初回に付与された10日のうち残っていた日数は時効消滅。

 

 ※有給休暇の付与ルールについてはこちらです。(引用:厚労省HP)

 

 休職に入る労働者がいる場合、意外とこの有給休暇がその後どうなるか?と言った質問は現場で相談が来るケースも多いので、人事担当者と当該休職者の上司については、上記の情報を把握しておくと良いでしょう。

 

 

【まとめ】

 

 ワークライフバランスや、家庭と仕事の両立支援環境の整備が求められる中、今後の有給休暇への注目度もあがっていくものと考えられます。最近では就職・転職先として、有給休暇の取得状況がクローズアップする傾向もみられ、単に取得できると言うだけではなく、どれくらい取得できるか?と言う点がとても重要になりつつあります。今一度、社内の有給休暇について、状況確認や新たな施策を講じてみてはいかがでしょうか。

 


・COH社労士事務所 人事労務LABOでは、50名未満の企業に特化した人事・労務環境の整備をサポートしています。詳細はこちらをご参照下さい。