· 

その身元保証書、本当に有効ですか?

 24年卒の新卒採用も10月1日の内定式を終えて、ひと落ち着きしたように思います。これから企業では、内定辞退がないように内定者フォローを実施していくと共に、年末年始を境に、オリエンテーションなどを開催して入社にむけた実際の事務手続きや準備作業へと移行していきます。

 

 ところで入社書類の中に、貴社は「身元保証書」をご用意されていますか?実は2020年4月に行われた民法改正により、身元保証書に関する重要な変更点が生じていることをご存じでしょうか?これを把握していないと、一定の要件を満たしていない場合には、その身元保証書は無効になるとされています。今回は企業と入社する社員間で締結する身元保証書に関するチェック事項をご紹介します。

【身元保証書の役割】

 

 まずは身元保証書が果たす役割についてご説明致します。身元保証書という言葉そのものは馴染みがある方も多いと思いますが、本来の存在意義は例えば社員が自己の責めに帰すべき事由により、会社へ損害を与えた場合などに第三者の保証人に対して本人と一緒に連帯して損害賠償をお願いしたり、入社する者が応募時に提示した経歴や身元に対して確認や保証をしてもらったりすることを目的に、長い間、慣例とも言うべき形で会社と社員間で行われてきました。これらに加えて、近年では社員に無断欠勤があり、その後も連絡が不通となるような事態が発生した場合に、企業からの要請により当該社員へ連絡の協力をおこなうなど、以前と比べてより保証人としての対応の範囲も広がってきていると言えます。 

 

 意外と誤解されていることもありますが、実際には会社と社員(入社した者)間ではなく、会社と身元保証人間における「契約」として結ばれ、保証人については企業側から、経済力があって生計を立てている成人であることなどが一般的に条件とされるケースが多くなっています。企業によっては保証人を2名としていることもありますが、社員側から見ると2名の保証人を探すことは、なかなかの負担となりますので、人数や対象者は状況に応じて設定すると良いでしょう。

 

 また、保証契約については、有効期間が長期に及ぶと保証人にとって相当に大きい負担となり得ますので、「期間の定めがない場合には3年」、「更新も可能ですが最長でも5年」として、身元保証法第1条および第2条1項にて定められています。稀に企業で自動更新としているものを見かけますが、これはたとえ書面に定めがあったとしても認められませんので注意しましょう。人事担当者と言え、有効期限まできちんと把握ができていることは少ないので、これを機会に確認をしておくことをお勧め致します。

 

 

【極度額の設定が必要】

 

 そしてここからが本題となります。以前の身元保証契約においては、第三者の保証人が保証する損害賠償額に上限がなく、保証人も身元保証人になる意味を十分に理解しないままにサインをするようなケースもあり、トラブルが発生していたことから、保証人の保護の必要性が指摘されていました。

 

 保証人から見て実際に損害賠償の事案が発生した際、どの程度までの責任を負うのか予想が著しく困難であるこのような契約を、民法では「個人根保証契約」と呼びますが、この根保証契約が2020年4月の民法改正の一部として、「個人に対する根保証契約については、保証人が責任を負う極度額(限度額)を定めなければ、保証契約そのものが無効になる」と改正されました。要は身元保証人と賠償の限度額を定めないままに結んだ身元保証契約は、契約そのものが成立しないと言うことになったのです。

 

 

【身元保証書の対応について】

 

 では、この改正を受けて企業の取る対応を考えてみたいと思います。基本的には以下の2点が現在では主流になっているようです。

 

① 極度額(限度額)を定めた身元保証書を締結する

② 身元保証書を廃止する

 

 やはりこのまま身元保証書を続行したいという場合については、法改正に則り極度額(限度額)を定める必要があります。この場合、極度額をいくらに設定するかが大きな問題となります。あまりに大きい額にすると、身元保証人となってくれる方がいなくなり、逆に低い金額にしてしまうと、今度は実際に万が一の事態が発生した際に企業のリスクが高くなります。この金額の設定については、非常に悩ましい所ではありますが、身元保証人を引き受けてもらうためにも、実際に現実的な金額を検討するしかないと言えますので、当該企業における事業内容、業務上起こり得る賠償リスクなども考慮のうえ、弁護士などの意見も聞いたうえで設定すると良いでしょう。なお、この極度額と言うのはあくまで賠償における「上限額」であり、必ずしもこの額を賠償しなければならないという意味ではありません。実際に身元保証人が賠償する場合には、裁判所が企業側の監督責任や企業・当該社員の過失状況なども鑑みて、賠償額の判断を行いますのでご留意ください。

 

 最近では人材不足の現状なども相まって、スピーディーに採用から入社までのプロセスを進めたいと考える企業も多く、身元保証書そのものを廃止している企業も増えているようです。極度額を定めるか、身元保証制度を廃止するか、これは企業判断と言うことになりますので、必要性などを今一度ご検討されると良いと思います。

 

 

【まとめ】

 

 以上のように、現在では大きく身元保証書の運用が変わってきています。まずは自社において身元保証書を導入している場合には、契約内容に極度額が入っているかご確認いただき、もしも入っていなければ、極度額を検討するか、身元保証書を廃止するかを企業でご検討されるという流れで進めていくと良いでしょう。なお、仮に廃止する場合でも、入社する社員からは緊急連絡先を別途、確保しておきましょう。

 


・COH社労士事務所 人事労務LABOでは、50名未満の企業に特化した人事・労務環境の整備をサポートしています。詳細はこちらをご参照下さい。